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凹凸(おうとつ)~こんな二人がいます~


人の才能なんて、どこに眠っているのか分からない。

ただ、人の脳の8割は眠っていると言われているが、その一部が起きている人も居るのかも知れない。


そして、【前頭葉の血流が悪い人】は、他のどこかの脳の血流が普通の人よりも良いのかも知れない。

(特徴:前頭葉の血流が悪い=発達障がいの原因と言われている)



25歳の若者、山畑一郎は、青と白のストライプの制服を着て、宅配業者の倉庫の中を行ったり来たりしていた。

お世辞にもイケメンとは言えない風貌で、野暮ったい髪型はいつも寝ぐせがついていた。

人と目を合わせて会話をしない、典型的なコミュ障タイプである。

(特徴:コミュニケーションが苦手)


「おい、山畑、これ忘れてるんじゃねーの?」


同じ職場の男性が、目の前の段ボール箱の宛先の住所を見て、山畑の担当地域なのを確認し、声をかけた。


「あぁ!すみません!」


そう言うと、山畑は小走りで、その段ボール箱を拾い上げ、また行ったり来たりし始めた。

それを横目に見ながら、同僚の男性二人が話をしている。


「しかし、まぁ、あいつ、ずっと動いてて疲れないのかね。」

「なんか、この後、畳の張替え屋でもバイトもしてるらしいですよ。」

「マジで!?」

「起業する為の金、貯めてるんですって。」

「マジで!?」

「ハハハ、2回、同じ事言ってますね。やー、すごいですよねー、未来の社長かー。」

「ハッ、あいつが、社長って面かよ。」


そう言って、バカにしたように笑う男と、かたや純粋に尊敬する男に囲まれながら、山畑は動き続けながら仕事をしていた。


***


3年後、木造アパートの4畳半、畳の部屋で寝っ転がりながら、貯金通帳を眺める山畑の姿がそこにあった。


(いやー、貯まったなー!)


そう心の中で言い、ニヤニヤしながら見上げた通帳の残高、1000万円。


最初に28円が入金された通帳には、毎月27万7777円が、定期的に預け入れされ、利子を受け取った翌月には帳尻を合わせつつ、3年間でちょうど1000万円になるように計算されていた。

(※特徴:数字にこだわりがある。緻密な計算が得意。決めたルールを必ず守ろうとする。)


部屋の中には、古いガンダムフィギュアとアニメのDVDや萌えキャラのフィギュアが並んでいる。壁には、エヴァンゲリオンのポスターが貼ってある中で、山畑が心でつぶやいた。


(よくやったわ、俺!3年間、どっこも行かなかったんだもんね!)


そして、壁のポスターのほうを見て、すり寄っていく山畑。


(待っててね~ん。俺、社長になるからね~。そしたら俺スポンサーになっちゃうよ~。ウフフフ。)


そして、ニヤニヤしながら、ポスターにキスをした。


***


新宿の雑居ビルの小さな部屋の中、中古のオフィスデスクと椅子が4つ、パソコンが4台。オフィスといえば、オフィスに見えなくもないような所で、ビールケースの上に乗って、演説をする山畑は、スーツを着て弁をふるっていた。


「これから!・・・えー、我が社は!・・・ITビジネスに!参画し・・・えー、いつか上場しますので!」


汗を拭きながら、慣れない演説をする山畑。コミュ障丸出しだ。

(※特徴:コミュニケーションが苦手、人前に立つと緊張する)


しかし、彼の熱い想いに賛同して入社した社員3人は、そんな彼を微笑ましく見つめていた。


「みんなで、頑張って仕事しましょう!よろしく!」


彼がそう言うと、3人の社員は快く拍手した。

男性が二人、女性が一人。みな20代の若者だ。


小さなオフィスに、小さな拍手が響き渡った。


***


創業、初日。

早速、山畑は、3人の社員それぞれに指示を出した。


最初に、25歳、中途採用のエリートドロップアウト男、東條。

高そうなスーツとバシっと決めた髪型が、小さなオフィスの中で浮いている彼に言ったこと。


「はい、じゃ、早速だけど、君はシリコンバレーに行って、どんなビジネスが流行ってるのか調査してきてね。一週間くらいで帰ってきて。」

「えぇ?!」


次に、22歳、新卒で受けた会社が全部落ち、山畑の会社が最後の砦となった男、西ノ原。

リクルートスーツを着て、首から下げた社員証入れが空っぽの彼に言ったこと。


「はい、じゃ、君はこのパソコンでアメリカのIT広告の動向をレポートにまとめてね。そんで次にに日本で流行りそうなもの見つけて。」

「え・・・。」


最後に、24歳、帰国子女で英語と日本語を混ぜながら話すアン・立石。

巻き髪で小奇麗な高級ブランドのファッション、小さ目のアクセサリーを付けたお嬢様風の才女に見える彼女に言ったこと。


「じゃ、君は経理と資金計画立ててね。あと、みんなが分からない時は英語教えてあげて。」

「Yes.sir.事業計画書はありますか?」

「それも作って。」

「Really?!」


こうして、波乱のIT起業が始まった。


***


1週間後。


山畑が上機嫌で、オフィスのドアを開けて入ってきた。


「みんな、おはよう!・・・あれ、東條くんは?昨日帰国したんじゃないの?」

「辞めるそうです。辞表はそちらに。」


パソコンの画面を見つめ、忙しそうに仕事をしながら、答えるアン・立石が山畑の

デスクを指差した。

デスクの上には、「辞表」と筆文字で書かれた封筒が置いてある。


「えぇー?!何のためにシリコンバレーまで行ったんだよー。」

「経費の無駄でしたね。次の採用は慎重にお願いします。」

「まったくもーぅ・・。」


そう言うと、山畑は肩を落としながら、自分でデスクにドカっと座り込んだ。


シーンとした社内の中で、西ノ原がパソコンを見つめて苦悩している。

見つめている英語のウェブサイトが読めずに困っているようだ。


西ノ原は、恐る恐る、アンに話しかけた。


「あのー・・・、すみません、ココの英語の意味、教えてもらっても・・」


西ノ原が話し終わる前に、アンがキレ気味に答えた。

(特徴:相手が話し終わる前に遮って自分の話をする)


「あのねぇ!もう、何回目?!Please use the trancelation system or dicsionaly something!(訳:翻訳システムか辞書とか何か使ってくださいよ!)」

「すみません・・・。」


謝る西ノ原を見て、不憫になった山畑が言った。


「立石さーん、そんなに怒らないで教えてあげてよー。」

「私の事業計画書と資金計画書が出来上がらないと、会社つぶれますよ、良いんですか?」


アンが強気に言い返した。

言い返せない、山畑は、西ノ原を見て言った。


「西ノ原くん、ごめんね、自分で調べてなんとかしてくれる?」


その何とも頼りない顔を見て、西ノ原は席を立って言った。


「あの・・僕も、辞めます!すみません!」


大きくお辞儀をして、急いで自分のビジネスバッグを抱えて、オフィスを出た西ノ原。

山畑がポカンとしている間に、バタンとドアが閉まった。


5秒後、そーっとドアが開いて、西ノ原がドアの奥から呟いた。


「あのー、辞表って・・・」

「要らないわよ。」


アンが冷めた口調で言い返すと、またバタンとドアが閉まった。


***


1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月と月日だけは過ぎるが、その度に、入社した新人は消えていった。


求人サイトへの対応と取材に追われる山畑は、もはやビジネスモデルなど考えている暇もなく、ただ夢を語ってばかりで、取材に訪れたスタッフを困らせていた。


「だからね、ITで面白い事やって、株式上場して、バーンとアニメとか作りたいんですよ。」

「ジャパニーズアニメですよ?世界に誇る、ね?分かるでしょ?」

「そんな夢のある会社を一緒にやりましょうよ、って書いてよ。」


たたみかけるように、話し続ける山畑に対して、ウンウンと苦笑いしながらメモをする取材スタッフ。

(特徴:話が長くて止まらない)


その時、アンはひたすら海外の事例と、IT広告について調べて企画書を作っていた。

取材スタッフは、それを見て、アンに話しかけた。


「あのー、従業員の方は、どうしてこの会社に入られたんですか?」


アンが、パソコンをいじる手を止めて、振り返り、笑顔で答えた。


「上場する会社で仕事がしたかったんです。ウフフ。」

「へぇー。」

「ぜひ、語学堪能な方に来て頂けると嬉しいです。私の仕事が減るから。アハハ。」

「ハハハ。」


愛想笑いが混ざったような乾いた笑いが、小さなオフィスに響いた。


***


その間、山畑の貯金通帳の残高はみるみる内に減っていた。

採用した人材は、ことごとく一ヶ月で退職し、年金事務所の往復と、給与支払いや雑務に追われる山畑。

流行りに乗って、300万円で買い取ったIT広告システムは、全く売り上げを産まなかった。販売元に文句を言っても、「営業努力が必要」の一点張り。

山畑は営業に向くはずもなく、アンが営業に乗り出したが、ITの知識が足りず営業先で一蹴された。


その後、もっと売りやすい物を売ろう、と、満を持してアンが出したネット通販の企画は、お金が足りない、と山畑に一蹴された。


それに負けじとアンは銀行からの融資を受ける事を提案。

二人で立派な企画書と事業計画書を持って説明に行ったが、今度は銀行マンに一蹴された。


***


オフィスには山畑とアンの二人だけが居た。

疲れきった顔で、パソコンを睨みながら、数字の計算をしているアンに、山畑は声を掛けた。


「ねぇ、何でみんな辞めちゃったのかなぁ。」

「このオフィス見たら、潰れそうだと思うからじゃないですか。」


ゴミ箱には、カップラーメンの入れ物がぎっしり捨ててあり、2台のパソコンはホコリをかぶっている。


イライラした顔で、パソコンを見つめるアンを見て、山畑が言った。


「いや、立石さんの顔が怖いからじゃないの?」

(特徴:空気が読めずに、相手にとって失礼な事を言ってしまう)


そう言われたアンが、山畑を睨みつけて、立ち上がって言った。


「じゃぁ、言わせて頂きますけどね、そもそも事業の中身が無いのに起業して、人任せなのがいけないんですよ!」

「起業なんてそんなもんでしょ?」

「だからって、お金無くなるまで色んな事やって、あげく借金すらできないって、何考えてるんですか?」

「それを考えて欲しいから、立石さんにお給料払ってるんじゃん。」

「全部、私が決めた事、やってるだけじゃないですか!今日、何してました?」

「えーっと、立石さんの食事を買ってくるのと、立石さんの自宅の掃除と片付けと、立石さんのペットの散歩。」

「私が働いてる時間が長すぎるから、そうなるんでしょ!」

「だって、俺よりも立石さんのほうが仕事できるから・・・」

「そ・も・そ・も!」


会話を遮りながら、そう言って、アンは、壁に貼ってあるエヴァンゲリオンのポスターをバンバン叩きながら言った。


「こーゆーののスポンサーになるために会社作るってね、動機が不純過ぎるんですよ!」


悪びれる素振りも無く、山畑が言った。


「名作だよ?」


怒りを抑えきれないアンは、英語で言った。


「I know!!But I can’t understand your mind.」

(訳:知ってるわよ!でも私にはあなたの考え方が理解できないの!)


最初の部分しか英語が理解できなかった山畑は言った。


「あ、知ってるよね?あと、後半、ごめん、なんて言ったの?」

(特徴:空気が読めないので、言葉で言われないと理解できない)


肩を落としながら、ため息をついたアンは、諦めたように言った。


「・・・いえ、もういいです。今日は帰ります。疲れました。」

「あ、遅くまでごめんね、ありがとう・・。」


そう言って、立ちすくむ山畑の前で、無言でバッグを抱えるアン。

山畑は、ドアを出ようとするアンに声をかけた。


「あ、お部屋ね、結構時間かけて整理整頓しておいたから・・あの・・」

「Thank you.」


アンは、振り向きもせずに、そう言って、ドアを閉めた。

デスクの上には、アンの忘れた携帯電話が置いてあった。

(特徴:忘れ物が多い)


山畑は心で呟いた。


(時間かかって遅くなってごめんね、って言いたかったのに・・・)


***


家に着いたアンを、ペットのダックスフンドが出迎えた。


「ただいま~。ごめんね、変な男とずっと一緒に居させて。」


そう悪態をついた、アンは部屋の中を見て、唖然とした。


散らかり放題に散らかっていた部屋(特徴:片付けが苦手)が、ビックリするほど綺麗になっている。

まるで、ホテルに帰ってきたような感覚になった。


クローゼットを開けると、畳まずに放り投げていた衣類が、大きいものはハンガーに、小さいものは、収納ケースにひとつひとつ丁寧に畳んで仕舞われており、引き出しのひとつずつに入っているものの名前のシールが貼ってある。

靴下も、下着も。


(あっ!パンツまで・・・もぅ~)


恥ずかしそうに、整理整頓された引き出しを閉めた。


そして、綺麗にベッドメイキングされたシングルベッドの上に上向きに倒れ込み、アンは呟いた。


「こういう仕事のほうが向いてるんじゃないの・・・。」


そして、目を瞑ったアンに、頭の中で、色んな映像が浮かぶ。

・エプロンをした家事代行サービス業者が家に来るところ

・部屋の片付けアドバイザーが、収納ケースに指示を出しているところ

・インテリアコーディネーターがオシャレな観葉植物を飾るところ


「イヤ、アイツのセンスじゃダメだ。」


そう呟いた、アンの脳裏には、エヴァンゲリオンのポスターの前で、秋葉原のオタクを象徴するようなファッションの山畑が浮かんだ。


その時、山畑の顔から、何かのセリフを聞いたのを思い出した。

以前、オフィスでカップラーメンを一緒に食べている時に言っていたセリフだ。


「親父?潰れそうなクリーニング屋。ハハハハ!」


アンは、ガバっと起き上がって、ぐちゃぐちゃのバッグの中の携帯電話を探すが見つからない。

(特徴:バッグの中の整理ができない)


(あー、会社に忘れてきたー・・・ま、明日でいっか。)


そう言って、上を向くが、ふと気づくアン。


(イヤ、忘れない内にメモしておこう。)

(特徴:忘れっぽい)


アンは、メモ帳にメモをし、書き終えると、満足げな顔で立ち上がってバスルームに向かった。


テーブルの上のメモ帳には、「クリーニング」「部屋の片付け」「掃除」「他に得意な事は?」と書いてある。


***


翌日、重たい顔をしてため息をつきながら、山畑はオフィスのドアを開けた。

(特徴:他人を怒らせる事の理由が分からず、落ち込む)


すると、アンが笑顔で振り返って、言った。


「来た来た!さぁ、座って!Come on!」


拍子抜けする山畑が、アンの隣に座ると、間髪入れずにアンは言った。


「確か、お父さんはクリーニング店を経営されてるんでしたよね?」

「うん。まぁ古いけど。」

「継がないの?」

「いや、今時そんなさぁ、大きく儲かるもんでもないし・・・」

「大きく儲ける前に、あなたの得意な事で確実に稼ぐほうが先よ!」

「得意な事?」

「私、部屋に帰って、もぅー!I was so suprised!(訳:超驚いたわよ!)あなた才能ある!」

「え?何が?」

「Oh、天才は往々にして自分の才能に気付いてないものね!今からお父さんのお店に連れて行ってくれない?」

「え?今から?」

「ここから、新しいビジネスが生まれるかも知れないじゃない!行きましょう!」


アンは、少し尻込みする山畑の腕を引っ張ってオフィスを出た。


***


まだ冬の寒さが残る、住宅街の中の枯れ木が所々にある道を歩く二人。

歩く道すがら、脇に、小学校の校庭があった。

ふと、校庭の奥にある校舎のほうに山畑が目をやると、イヤな思い出が彼の脳裏をよぎった。


教師に怒られ、友達にも笑われ、バカにされていた記憶だ。

一生懸命、説明しようとすればする程、空回りをして誰も話を聞いてくれない。

教師や友達が、自分の事をあざ笑う顔が、白黒の映像で彼の頭に浮かぶ。


それを消し去りたいように、明るくアンに話しかけた。


「ここ、俺の出た小学校。」

「へぇー、リトル山畑、ここに通ってたのね。」

「背が低くてさぁ、いつもいじめられてたよ。キン肉バスターとかかけられて。」

「キン肉バスター?」

「知らない?キン肉マン、流行っててさぁ、消しゴム死ぬほど集めたもんだよ。俺のコレクション結構色んなヤツに騙されて、奪われたなぁ。」

(特徴:素直で騙されやすい)

「そうなんだ。」

「イヤ、一番気に入ってたヤツとかさ、ブロッケンJrとか、結構貴重なヤツもあってさ・・・」


延々とキン肉マンの話をする山畑を、横目で眺めながら、分からない話を適当な相槌を打ちながら、アンは聞いた。

(特徴:話が長くて、止まらない)


終わらない話に辟易していたアンは、コンビニエンスストアの前を通りかかったので、チャンスとばかりに、山畑の話を遮って言った。


「ちょっとコンビニ寄りますね。」

「あ、うん。」


コンビニに入る二人。

山畑が店内に入ってレジのほうを見ると、またイヤな思い出がフラッシュバックした。


コンビニでアルバイトをしていた時の記憶だ。

揚げ物の機械の前で、じっと眺めながら突っ立っている彼に、レジの辺りで女性客が何度も声をかけている。

(特徴:集中力が高く、声を掛けられても気づかない)

それに気付いたコンビニ店主が、慌ててレジに走り寄って、山畑に怒鳴っている。

すみません、すみません、と謝りながら、レジに行って清算をするも、お釣りを落としたり、手際の悪い山畑。

(特徴:失敗するとパニックになって更にミスを重ねる)

客が帰ると、コンビニ店主は、山畑の頭をはたいた。

掛けていた眼鏡がずれたまま、うつむく山畑。


「行きましょうか。」


アンに声をかけられて、うつむいていた山畑は、ハッと我に帰った。


***


築40年は経っているのであろう、住宅地の一軒家の一階部分に、クリーニング店があった。

古びれた青い看板に描かれた、白色の「ヤマハタクリーニング」の文字は既に一部が消えかかっている。


「ここだけど。」


山畑が気まずそうな顔でそう言うと、アンは何も言わずに、クリーニング店のドアを開けて入っていった。


「あっ、ちょっ、ちょっと。」


慌てる山畑は、アンのスピードについていけなかった。

(特徴:行動が早い)


入り口を入ったアンは、明るく丁寧に挨拶をした。


「こんにちはー。私、息子さんの会社で働いています立石と申します。いつもお世話になっております。」


アンは、カウンターに立っている山畑の父親にそう言うと、丁重にお辞儀をした。


「あ、どうも、どうも。こちらこそ。どうしたんですか?」


驚いた顔の父親に、笑顔でアンが言う。


「この周辺のお客様の来られる時間帯について、ちょっと調べてまして、良かったら3分程お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あ、良いですよ。何、アイツはそんな仕事をやってるんですか。」

「まぁ、まずは何でも調査が必要なもんですから。」

「へぇ。」


何をやっているのか、さっぱりわからない様子の父親をよそに、アンは話を始めた。


「ところで、このお店に来られるお客様は、いつも何時頃にいらっしゃるんですか?」

「そうだねぇ、大体は午前中が多いね、ほら古くからの馴染みのお年寄りばっかりだから。」

「へぇー、そうなんですね。雑談とかされますか?」

「するする。みんな1人とか夫婦だけとかで寂しいからねぇ。」

「どんなお話が多いんですか?」

「まぁ、天気の話とか、誰が病気だとか、死んだとか、遺品の整理だとかね。大変だよ、みんな。」


良いニュースなどまるで聞かない、といった様子の父親を前に、少し考えてからアンが言う。


「遺品の整理ねぇ・・・、皆さん長く同じ家に住んでらっしゃる方が多いんですか?」

「まぁ、夫婦共生きてればね。どっちか死んじゃったら、引っ越す人もいるよ。でも、みんな本当は引越したくないらしいんだけどね。」

「それは、何でですか?」

「住み慣れた家を離れたくないもんなのよ、年寄りは。」

「そうですよね、分かります。」

「でも、年取ると、身体のほうがきつくなってくるからさ。」

「そうですよね、買い物も重たいでしょうし。」


東京で車の無い生活に、辟易していたアンはそう答えた。


「そうそう。なるべく家に居たいのよ、本当は。」

「そうでしょうねぇ。」

「そんで、たまーに好きなところに出かける訳。お気に入りの服来てね。そんで次の日にウチの店に来るのよ。」

「へぇー。」

「そんなしょっちゅうじゃないから、ウチもたいして客は来ないんだけどね。」

「いえいえ、常連のお客さんがいらっしゃるってすごい事です。」

「イヤイヤ、儲かんないんじゃねぇ。」

「事業は、細くても長く続ける事のほうが大切です。お父様、素晴らしいお仕事されてらっしゃいますね。」


自分の両親が経営者であるアンは、小さい頃から父親に聞いていた話を、そのまま素直に尊敬の念を込めて伝えた。


「イヤイヤー、そんな事は。」


山畑の父親が照れたように、笑った。


そこに、客が入ってきた。

60代の主婦らしき女性だ。


腕時計を見て、約束した3分が過ぎているのを確認したアンは言った。


「あ、じゃぁ、すみません、お忙しいところ、ありがとうございました。」


アンがそういうと、山畑の父親は、丁寧にお辞儀をして言った。


「息子の会社、どうぞよろしくお願いします。何かあったらすぐ言ってください。」

「はい。私も頑張ります。ありがとうございます。」


そう言って、アンもお辞儀をし、店を出た。

山畑は心配そうにウロウロしながら、外で待っていた。


「あ、もぅ、何話したの?俺、親父から昔、起業するの反対されたから仲悪いんだよ。」

(特徴:一度言われた事をいつまでも覚えていて根に持つ)


アンは言った。


「流行りに乗るのも良いけど、独自の路線を貫きません?」

「独自の路線って?」

「あなたと私が得意な事。」

(ADHDの特徴:独自性がある)


そう言って、アンは山畑を置いて、歩き出した。


***


オフィスに戻ったアンは、パソコンのデータを開いた。

資金計画表だ。


残高は既にジリ貧で、このままだと、2か月後には家賃が払えなくなるのが分かっていた。

借り入れをするには、信用が必要だ。

何とか、山畑の信用をお金に換える手段が無いか、アンは考えていたのだった。


山畑が、どうしたものか、不安げにアンのパソコンを覗き込むと、アンは言った。


「お父さんのお店、継ぎませんか?」

「クリーニング屋?儲からないと思うよ?」

「いえ、新しいクリーニング屋を。今までに無いようなお店にするんです。」

「どんな?」

「シニア×クリーニング×需要×供給」

「何それ。」

「それをこれから考えるんでしょ!What about thinking your brain!(訳:あなたの脳みそは何考えてんの!)」


そう言って、アンは、山畑の頭を小突いた。


***


二人は、オフィスのホワイトボードの前で、あーでもない、こーでもない、とキーワードを書いては消し、書いては消し、話し合っていた。


傍らにある本棚には、山畑が読み漁った堀江貴文の著書が沢山詰まっている。

それを、横目に見ながら、山畑がホワイトボードに書いた。


「ヒト・モノ・カネ」


それを、真剣に聞きながら、アンがホワイトボードに書く事を、山畑に提案した。


ヒト=シニア

モノ=服

カネ=財布、店舗


言われた通りに書いていく山畑。


二人の会議は、連日深夜まで続いた。


***


そして、アンは、古くからある商店街のシニア向けの洋品店を駆け回った。


どこも閑古鳥が泣いていて寂れているんだと嘆いている。

その話を親身に聞いては、提案書を出し、話をした。

いくつかの店が、うんうん、と頷き、互いに握手を交わした。


***


山畑は、実家のクリーニング店に居た。

父親に、アンの作った提案書を見せ、絶対成功するから、返済は必ずする、と説得する山畑。

最後の最後にやっと頭を下げた息子を見て、父親は渋そうな顔をしながら、承諾した表情で頷いた。


***


そして、山畑は父親と共に、銀行へ向かった。

前回、アンと共に行って、全く融資してもらえなかった所だ。


父親がよく知っていると教えてくれたから行ったのに、あれだけぞんざいに扱われた事に対して、山畑は根に持っていた。

(特徴:根に持ちがち)


融資担当の窓口に行くと、父親の顔を見て、ニコニコと出迎える銀行マン。前回の担当者と同じ人物だった。

山畑はバツが悪そうに、うつむき加減で話を聞いた。


父親と銀行マンは世間話程度に話をした。

その後、特に何も提案せずとも、金額の話だけで、気前よく融資をしてもらえる父親を見て、山畑は驚愕した。


それと同時に、父親の長年かけてやってきた事の大きさと、自分の甘さを思い知った。


その後、山畑の父親に対する態度は変わった。



***


そして、改装後の新しくなったキレイな看板とクリーニング店のカウンターが自動ドアの奥に見える店舗の前で、二人はビラを配っていた。


【月額6800円で、あなたに合ったステキな服をレンタルしませんか?】


店に客が入ると、すかさず声を掛けて、説明をするアン。

1人の60代らしき女性客が頷くと、クリーニングが終わった服を、ショッピングバッグのようなオシャレな袋にアンが入れ、それを抱えて、商店街の洋品店へ一緒に向かう。


洋品店では、アンと客を快く迎えてくれて、洋服を選んでくれている。

それを眺めるアン。


洋品店で、話がまとまると、選んだ服を、クリーニング店から持ってきた袋に一緒に入れた。

アンが客からお金を受け取って、1カ月以内にクリーニング店に返却するように、返却日を大きく書いた紙を洋服を入れた袋に貼り、客に手渡した。


洋品店の前で、お辞儀をして客を帰した後、店主に受け取ったお金の半分を手渡した。


そして、山畑の元に戻るアン。

クリーニング店では、父親が別な客に一生懸命説明していたが、助けを求めるように、アンを紹介していた。


***


別な日。


山畑とアンは、クリーニング店に来た一人の初老の男性の自宅に出向いた。

東京都心の大きな一軒家だ。

外観と土地の広さから、相当なお金持ちなのであろう事は、すぐに理解できた。


アンがインターフォンを鳴らし、玄関で出迎える男性。

寂しそうな、でもホッとしたような表情で、家に二人を入れた。


奥の部屋の仏壇に、年配の女性の遺影があるのを横目で眺めながら、その部屋を通り過ぎようとした家の主人に、アンは声をかけた。


「奥様にご挨拶をさせて頂けませんか?」


そう言われて、主人は嬉しそうに頷いた。


アンと山畑は、仏壇に向かって丁寧に手を合わせた後、主人の話を聞いた。


7歳年下の奥さんが、子宮癌で亡くなった事。

若いころは仕事で忙しく、あまり夫婦で出掛けられなかった事。

闘病中も、病状が悪化し、行きたいところに連れて行ってあげられなかった事。

そんな奥さんを元気づける為に、退院したら一緒に出掛ける時に着ようと、お見舞いの度に、洋服を買って持って行った事。


そして、その洋服たちが一度も着られぬまま、クローゼットに仕舞われている事も。


アンは、主人の話に涙を流した。

(特徴:感受性が高い)


同じ女性として、感じる事が多分にあったからだ。

家には、仕事の忙しさにかまけて、行くのを後回しにしていたがん検診の書類があったのも思い出した。

(特徴:予定を先延ばしにしがち)


涙をふいたアンを見て、主人がクローゼットへ案内してくれた。

そこには、お金持ちの奥様らしい、高級ブランド品の上品な洋服が並んでいた。


アンは、ブランドのタグを見て、言った。


「奥様が行きたかった場所に、私どものお客様が連れて行ってくださいます。大切にお預かりいたします。」


そう言って、山畑と一緒に、丁寧にお辞儀をした。


大きな屋敷の広い庭には、桜の木が堂々とそびえたち、風が吹くたびに花びらを散らしていた。

家を出て帰るアンの肩に、その花びらがそっと乗った。


***


お金持ちの主人から借りた洋服は、提携している閑古鳥の泣いていた洋品店に置かれた。

ブランドのタグを見て、ビックリする店主。

アンは、事の経緯を丁寧に説明してから言った。


「これで売り上げが上がってきたら、こういうタイプの洋服をぜひ仕入れてください。何回かレンタルされたら、元が取れるはずです。あと、帽子やアクセサリーなど合うものをご用意頂いて一緒に販売されても良いと思います。」


アンの言った事に、ウンウンと頷いて、早速、洋服に合うアクセサリーを、カタログから選び始める店主。


それを見て、忙しそうに、アンは店舗を後にした。


***


二人のオフィスは、アンの自宅に変わっていた。

アンはパソコンに向かって、ビラのデザインを修正していた。


「月額9800円で借り放題!又は月1回6800円」


その最中、山畑はアンの部屋を片付け、ペットの相手をしていた。


パソコンに向かっているアンの隣に、山畑はコーヒーを差し出すと、言った。


「じゃぁ、お疲れ様、俺そろそろ帰るんで。」

「あ、うん、お疲れ様でした。あ、コーヒーありがとう。」

「晩飯どうすんの?」

「んー、何か買ってこようかな・・・。」

「あ、じゃぁ、俺作ろうか?」

「え?料理できるの?」

「まぁ、大したもんじゃないけど、いつも作るパスタくらいなら。」

「Really?私、料理苦手!お願いします!」

(特徴:家事が苦手)


***


山畑が作ったナポリタンを、テーブルに並べて、二人は食卓についた。


「じゃ、いただきまーす。」


アンがナポリタンを食べるのを、じっと見つめる山畑。

一口食べてアンが言った。


「美味しい!」


安堵の表情で山畑が言う。


「良かったー。」


アンが、言った。


「料理の才能もあるんじゃないの?」

「いや、決まったものしか作れないよ、俺。」

(特徴:決まった手順を忠実に守るのは得意)

「私、作ってる最中に他のことやり始めていつも失敗するもん。」

(特徴:他の事に気を取られて注意散漫になりがち)

「あぁ、よく色んな事同時にやってるよね。」

(特徴:他動力を活かして、マルチタスクをこなす)

「頭の中がたまに混乱する事はあるけど」

「俺、一個の事集中してやっちゃうから、同時進行無理なんだよね。」

(特徴:集中力が高い)

「でも、飽きずに出来るのがすごいよ。私、すぐ飽きて別な事やりはじめちゃう。」

(特徴:飽きっぽい)

「まぁ、人には向き、不向きってのがあるからね」

「そうだね。」

「お互いに無いところ補ってやっていければ良いのかな?」

「才能あるところを、お互いに伸ばしつつね。」

「そうだね。」


すると、少し考えてからアンが言った。


「・・・明日も何か作ってくれる?」

「うん、いいよ。代わりに会社の売上伸ばしてくれる?あと、がん検診行きなよ?」

「Sure.(訳:もちろん)私、仕事は早いよ?」

「知ってる。家事下手だけど。」

「あなたがやればいいじゃん。」

「ハハハ、バランス取れてるね。」

「取れてるね。」


そう言って、微笑む二人を、ペットのダックスフンドが見つめていた。


二人の才能が、どこに眠っているのかは、まだわからない。

ただ、人の脳の8割は眠っていると言われているが、その一部が起きている人も居るのかも知れない。


そして、【前頭葉の血流が悪い人】は、他のどこかの脳の血流が普通の人よりも良いのかも知れない。


***


10年後。


新宿副都心の高層ビルの中、大きくて立派なオフィスの受付がある入り口を、「祝・上場」と書いた札の刺さった胡蝶蘭の小包を持って、青と白のストライプの運送会社の男性が入っていった。




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